一つの小説を書き終えるといつも猛烈な肩こりと腰痛に襲われる。本当は執筆中からダメージがあったのだろうが無意識でブロックしているのだろう。ヨガとかストレッチとか整体とか色々手を出すが、いまだにこれというものは見つかっていない。

 最近はアレクサンダーテクニークというのにハマっていて、肩も腰も楽になったような気がするが、どうせこれも執筆が始まったらまた台無しになるんだろうな。

 姿勢が良くなると自律神経は整うし、内臓が正しい位置に収まってダイエットにもなるし、頭も体も良く働くし、悪いことなんて一つもないように本には書いてあるが、それならどうして人体は自然に正しい姿勢にならないのだろう。

 人間が二足歩行になってからもう何万年も経つし、椅子や机ができてからも1000年ぐらいは経っているだろうから、そろそろ悪い姿勢の人類は淘汰されて、自然と良い姿勢を取ってしまう人類だけが生き残っても良いはずだ。それなのに人類の姿勢は良くなるどころか悪くなる一方なのは、悪い姿勢から何らかの利益を得ているからではないか。

 肉体は精神の器だとニーチェは言った。現代社会は猫背とストレートネックを要請している。インターネットで猫は人気コンテンツだ。きっと30年後は心も体も首はまっすぐで背中が曲がっているのが当たり前になっているに違いない。

 執筆している時はたいてい根を詰めて前かがみになっているイメージだ。ピシッと背筋を正して何かを書いているのは書記官と取り調べの調書官ぐらいしか思いつかない。姿勢の悪い書記官は間違いが多そうで、正しい姿勢の作家の書いた物はあんまり面白くなさそう。あくまでイメージだが、そんな気がする。現代社会は悪い姿勢から得られる何かを必要としているのだろう。あるいは正しい姿勢ではいられない世の中が間違っているのかもしれない。

 この記事を書いている時も姿勢が悪くなっていた。この文章もきっと間違っている。ピシッとしないとな。

(おわり)

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