前日譚→あの日見た大人に僕はなれない。 

私が思春期並に人生について悩んでいると、一人の男が目の前に立ち塞がった。


「HEY! YOU! 悩んでいるようだね!」


「宗教の方ですか?」


あまりに変な恰好をしているので、私はそう尋ねた。


「NO! 俺はO-KING! HEARTのBEATでWALKING。俺は見てる。お前の背中泣いてる。」


「ダジャレやめてもらえませんか? 言葉が頭に入ってこないんで」


「あ、すみません。あなたが悩んでいるようなので人生が開ける魔法の言葉を伝道してみました」


「やっぱり宗教ですよね」


「怪しいと思っていますか?」


「鏡で自分の姿を見ましたか?」


「ワンチャンありかなって・・・・・・」


「はぁ~。もういいです。早く済ましてください」


「あっ、もし良ければこれ読んでください。人生は変えられないけど自分は変えられる。そういうことが書かれた本なんです」


O-KINGとかいう男は強引に一冊の本を私に押し付けた。タイトルは『a better place to pray』という本だった。どういう意味かは分からない。prayは祈り。やっぱり宗教書か。タイトルは英語だが、中身は日本語だった。


私はO-KINGなる怪しげな男から貰った本を一晩中読みふけった。私は何だかんだで本の虫なのだ。町中で配られた聖書も読むし、クレジットカードの約款もちゃんと読む。どうやらこの本は宗教書ではないようだった。


O-KINGは、自分は変えられるなんて大げさな言っていた。でも何も変わらなかった。本一冊で変わったら大変なことだ。私は『a better place to pray』を本の山に積み上げると眠りについた。


翌朝、私は目覚めると朝一のトイレを済ませて洗面所の鏡を見ると叫び声を上げた。


「な、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁ!」

鏡の中には知らない男が映っていた。だが、そこに映っていたのは紛れもなく私だった。そんなバカな。私はイケメンに生まれ変わっていた。イケメン過ぎて視界がぼやけるほどだ。


私はあの日見た大人にはなれなかった。でも、イケメンにはなれた。人生は変えられなくて自分は変えられる。現に私は変われた。


この衝撃を世界中に広げなければならない。O-KINGの言葉を伝道するために私は一冊の本を持って町中へとおもむいた。


(おわり)





本当にここが、相応しい場所なのだろうか?
昇っていく煙の先を、ずっと見ていた。
あてもなく消えていくその煙は、まるで何かを弔っているようだった。
新宿の片隅を舞台に、世代と社会の隙間にいる人たちを描く。

ある夜、突然段ボール箱の妖精《ぼるっちー》になってしまった男。
ぼるっちーは本物の妖精であった。
男は、自分であることを次第になくしていく。