熱力学第二法則では無限の広大さを持つ宇宙は、いつか全ての物質が無限に拡散してしまい無限に冷えきってしまうそうだ。身近で体感できるものといえば服の上から掃除機を当ててみればいい。とってもヒンヤリする。気化熱で冷えているわけだが、大きな目で見れば同じ原理である。太陽が膨張してどうのと言っている場合じゃない。体育館の裏で吸った煙草の吸殻が学校を燃やさないように、宇宙はスカスカすぎて太陽一個じゃ全然暖まらないそうだ。地球温暖化なんて言っているが宇宙規模では絶賛寒冷化している。

 

 未だに宇宙はどうやってできたのか分かっていない。とりあえずビッグバンがあったらしいことは確からしいが、ビッグバンの前はなんだったのかは分からないそうだ。宇宙は不思議だが、身近にある意識だって充分不思議なことだ。我々は道端に落ちている亀の気持ちでさえ測ることができない(できないよね?)。

 

 万有引力という物がある。それによると全ての物は引き合っているそうだ。それにしては地球の表面ではぴょんぴょこ跳ねているものが多い。カエルも、カメも、牛も、豚もただ黙って地面に引っ付いていることはない。ぴょこぴょこと歩くたびに足を地面から放している。鳥ぐらいになってくると地面から引きこもっているといっていい。

 

 もし仮に岩が道に落ちていて「エイヤッ!」というかけ声とともに急に宙へ飛び上がったら誰もが驚くと思う。岩というものは転がさないかぎり地面に引っ付いて動かない。明らかに物理法則に反している。もしそう動いたなら、岩に意思があるか、何者かの意思によって動いたと考えるのが妥当ではないだろうか。

 

 猫が屋根に飛び上がるのは物理現象に反していないのか?

 たんぱく質の塊が「にゃあ」と鳴きながら宙へ飛び上がっても別段驚かないのは何故なのだろう(猫は鳴きながらジャンプしないと思うけど……)。当たり前のようだが、よくよく考えてみると超凄い。何故意思は物理法則に反抗し続けるのだろう。どうして地面や海の底でじっとしていられないのだろう。

 

 昔々、私が香川県の道を走っているときに超眠たくなったことがある。まばたきした瞬間に一瞬眠ってしまうほど眠気に襲われていた。ああ、くそっ。あともうちょっと、もうちょっと走ったらどこかで休もうと思いながら走っていたが、結局どこでも休まずに走り続けた。

 

 海沿いの道に出た時にいよいよ危なくなって、一際大きく目が閉じた瞬間、目がしゃきっとして、眠気が一瞬でどこかへ去り、私は知らない道を走っていた。さっきまで左に見えていた海は山に変わり、右側が川になっている。一体ここはどこだと走り続けていると、どうも徳島県に帰ってきているようだ。それでもどこか分からずに走り続けて、ようやく自分がどこにいるか分かった。

 

 私は海沿いの走りやすい道を通らずに、何故か面倒な山越えの道を選んで徳島県に帰っていた。体感的には深く瞬きした一秒にも満たない出来事だった。目がしゃきっとしているからにはたぶん眠っていたのだろう。私は急に恐くなって、路肩の広くなった場所に車を停めると、何かを轢いたりぶつけたりしていないか調べた。どうも無事のようである。

 

私は意識を失いながら運転していた。でも車を運転することができた。たぶんサバを捌くことだってできただろう。体に染み付いた反応が無事にそうさせたのかもしれない。たぶん私が思うに、結果と反応をフィードバックする機能があれば人間に意識を想定しなくてもつつがなく活動はできるように思う(哲学的ゾンビだ)。でも何故か意識は存在する。

 

 糸が切れた人形のようという表現がある。力無く地面にぐにゃっと潰れている恰好。だがむしろ物理的存在としての人間はそうあるべきなのだ。
 

 意識を必要とする場面を考えてみるにそれは物理法則に逆らうときに必要となるみたいだ。眠る時に意識は必要なく、むしろ邪魔である。それとは逆に起き上がるときは(特に寝起きは)強い意思を必要とする。自然に起き上がることはない。

 

 何故意識は物理法則に抗おうとしているのかは分からない。もし私に意識がなければPCを前にだらりと寝そべっているはずだ。こんな文章を書いているのは物理的に異常事態である。

 

冷えた宇宙が、その中にある地球が汗をだらだらにかくほど暑いのも異常事態で、マイナス270℃ぐらいが適温のはずだろう。でもそうじゃない。意識とは根源的に物理法則に反抗して宇宙をホットにさせる働きがあるのかもしれない。


織田信長に寺ごと焼かれた坊さんはこう言ったそうだ。
"心頭滅却すれば火もまた涼し"
どうやら意識がない世界は涼しいものらしい。

心無い人を冷たい人と言い、優しい人は暖かい人と言う。熱い演奏は魂を熱くさせ、凄い小説は心を揺り動かす。振動は摩擦だ。摩擦はエネルギーだ。ビッグバンは偶然の産物かもしれないが、意識的な超爆発の可能性だってある。今日も暑くて夏い日だった。でも宇宙を冷やすなんて狂気の沙汰だ。意識の超新星大爆発で宇宙のバイブスを上げていこうぜ。

 

 

(2015/7/26 牛野小雪 記)