『東京死体ランド』の世界には生者と、死体が存在する。現実の世界も同じだが、この世界の死体は生きている人間と同じように喋ったり、歩いたり、タイヤを売っていたりする。生きている人間と変わらないようだが、死体はやっぱり死体で両者には壁がある。そして死んだ人間は生き返らない。

 この物語の中では生者は珍しい存在のようだ。人だけではなく町も動物も死んでいっている。町田市は死体のリス達によって町田リス園になろうとしていて、新宿では「あんたらまだ生きているのかい」と言われるほどだ。この世界では生者が異物のような感がある。

 東京死体ランドは死体の世界の一アミューズメント施設にすぎない。それを壊しに行ったところで何になるのだろう。東京死体ランドは死体しか入れないのに、彼らはどうやって中に入るのだろう。しかし、僕たちふたりは東京死体ランドに入って、ぶっ壊しにかかり、物語の最後に主人公の僕は愉快な体験をして、将来の幸せに思いを馳せる。

 この物語はハッピーエンドなのだろうか。ハッピーかどうかで言えばハッピーだろう。でもそこはかとない儚さもある。きっとリス園のリーダーなら前歯を剥き出しにして戦いを始めるだろう。リーダーが簡単に捕まってしまうぐらいだから、リス園のリスたちはきっと無力なのだろうけれど、彼らの存在はこの世界の慰めになるだろう。

東京死体ランド (隙間社電書)
伊藤なむあひ
隙間社
2018-09-03





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