ソクラテスが昼間の市中でたいまつをともしながら「人間はどこだ」と探し回る逸話をノートに書いていて、ふとどういう経緯でそんなことをしたのか気になってgoogle検索してみると、全然ヒットしなかった。おかしいな、とwikipediaでソクラテスを見たり、ソクラテスの逸話、小話、とかで検索してもまったく出てこなかった。そんなわけあるか、絶対にこの話を読むか聞くかした記憶があると絶対の自信を持っていたので、一日中その逸話を探していたが、ネットにも本にも見つからない。

 人は自分の見識と違うことが起きると、超現実を信じてしまうようだ。私はソクラテスが人間を探さなかった並行宇宙に迷い込んだとしばらく信じていた。本当に不思議だが、こんなことがありえるのかと、奇妙に納得していた。しかしふと何故かディオゲネスについて調べたくなり、wikipediaを読むと、ようやく答えが見つかった。私が探していたのは彼だった。ディオゲネスがランタンを灯して「正しい人間はどこにいる」と歩き回っていたのだ。
 
 ソクラテスはディオゲネスで、たいまつはランタンだった。でも私は何故か前者の方が正しいと思い込んでいて(でも本当に並行宇宙に迷い込んだのかもしれない)、それがために一日中何もないところを歩き回されていたというわけだ。ソクラテスに「知っていると思い込んでいるが何も知らない人だ」とdisられてもしかたがない。

 本当に名前については信用ならない。自分の小説の登場人物でさえ名前を間違えるくらいダメだ。どうやったらちゃんと名前を憶えられるんだろう。人の名前はもちろん、ペンネームの牛野小雪でさえ思い出せない時がある。

(未完)

※ちなみにディオゲネスが見つけたのは詐欺師とごろつきだったそうな。

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