signal bule 2

 私がいつも通る横断歩道では不思議なことが起こります。そこでは誰もが赤信号でも道路を渡っていたのです。

 ある時、私は赤信号を渡ろうとする人を呼び止めて、どうして信号無視をするのかと訊くと「何を言っているんだ。青じゃないか」と答えました。また別の人に「信号は何色ですか」と訊くと、馬鹿にされていると思ったのか「青!」の一言が返ってきました。またある人は赤信号で立ち止まった私の隣に立ち、しばらくした後に「なんだ、青だったのか」と道路を渡ることもありました。私の目にはどう見ても赤信号なのに、何故か他の人には青に見えているようなのです。

 私の目はおかしくなったのでしょうか。しかし、そことは違う横断歩道で他の人達は赤信号で止まっていました。赤信号を渡った人もそうだったので「信号は何色ですか」と訊くと「あなたは色が見えないんですか。赤ですよ」と答えました。そして信号が青になると、その人は道路を渡りました。

 私は頭がおかしいのかもしれない。しかし、そう思っていた矢先に悲劇は起こりました。赤信号を渡っていた人達にトラックが突っ込んだのです。私はたくさんの人達が死ぬのを目の前で見てしまいました。「ああ、なんてこった。青信号だったのに何で人が通っているんだ」とトラックから降りてきた運転手は叫んでいたので道路は青信号だったのでしょう。歩道が赤なら道路は青のはずです。でも事故現場の周りにいた人達は「どうして青信号に突っ込んできた。頭がおかしいんじゃないか」と運転手を非難しました。でもその時の横断歩道の信号は赤だったのです。それなのに運転手は赤信号を見て、自分の罪を反省するかのように頭をうなだれました。

 あんな悲劇があったのだから赤信号で渡る人はいなくなるだろう。そう思っていると、やはり次の日から赤信号で道路を渡る人はいなくなりました。みんな横断歩道の前で立ち止まっています。でも青信号になっても道路を渡りませんでした。私が道路を渡ろうとすると「赤だぞ。何をやっているんだ」と怒鳴られました。でも信号は青です。トラックも信号の前で止まっています。でも道路を渡ろうとする人は一人もおらず、私がとんでもないことをしているような目で見てきました。

 別の日に私は青信号で立ち止まっている人に信号の色を訊きました。すると「赤だよ」と答えました。「昨日もここで立ち止まっていましたね」と訊くと「そうなんだ。でも、いつまで経っても赤のままだから会社に行けないんだよ。このままじゃクビになってしまう。ああ、ちくしょう。会社のためには赤信号でも渡らなきゃいけないのかなぁ……」と心底困った様子で答えましたが信号は青でした。

(おわり 2018年11月12日 牛野小雪 記)