ant wil

 蟻の行列を構成する蟻の一匹一匹は全体を意識していないが群体としては統一されたような動きをする。何年か前からそういう感じで書けないかとおぼろげに思っていた。

 8月からずっと書いていたプロットはアイデアがいくつもあったが、それが一本のストーリーラインにならなくて、なったとしてもすぐに分解したりで、これはもしかして無理筋を追いかけているのではないかと思うこともあったが、何かしら進んでいる手応えはあったので頑張って続けているうちに、ふと一つの流れができていることに気付いた。いつの間にか一本のストーリーラインが引けていたのだ。プロットが完成したというよりは、発見したという感じで、いわゆる達成感はない。でも新しい紙にストーリーラインを引いてプロットを書き直すと、これは凄い物が書けるぞ、と胸が沸き立った。

 最初は『山桜』という題名にしようと思っていたが、やっぱり『ナトリウムランプ』にしよう、いやナトリウムランプが分からない人もいるだろうから『道の灯り』にしようとか考えていたが、結局最後は『山桜』に戻ったのも嬉しい。いつも仮題を付けて書くが、たぶん書き終わっても『山桜』は変わらない気がする。何だかんだでファーストインプレッションは正しいものだ。あるいは題名が小説を作るのかもしれない。それなら次回作は『爆誕☆銀河最強三大小説群』とかにしてみようか。

 山桜の元ネタは本居宣長の"しきしまの大和心を人問はば朝日に匂ふ山桜花"から取ったのだが、その時に書こうとしていた現代における武士道とか大和魂とは全然関係ないものになった。でも歌の意味からすればTHE-BUSHIDO! YAMATO-SOUL!みたいな感じではないから、それで良いのかもしれない。武士道も大和魂もプロットから外れたが残ったものに何かしらの影響は残していて、それは現代社会も同じだ。と、なると実は当初の予定通りの物を書かされようとしているのではないかと思った。

(おわり)
ガイドツアー 複雑系の世界: サンタフェ研究所講義ノートから