私が住んでいるところは市役所からも学校からも公民館からも距離があるので、町内会の何とか会館という場所で投票をするわけだが、人間が考えることはみんな同じで私が昼下がりに投票所へ行くと何台か車が停まっていた。

 中は人でいっぱいで暑いだろうから、しばらく車の中で人がはけるのを待ってから中に入った。
 廊下には何故かブルーシートが敷いてあって、その上を歩くとざらざらした感触が足の裏にあった。たぶん普通のブルーシートより安い素材でできた物なのだろうね。こんなところに地方の不景気が現れているなぁ、と少し寂しくなった。

 ちょうど投票所から若い男の子が出てきてすれ違ったのだがちょっとビックリしてしまった。今回の選挙は18歳からだから、たぶん高校生なのだろう。髪の毛なんかピーンと上に立ててるし、Tシャツの片方をずり上げて上腕二頭筋をムキッとさせちゃったりしてさ。そしてなによりニヤついた顔をしながら土足で廊下を歩いていたのが衝撃的だった。

(うわぁ・・・・これがゆとり世代か)

 なるほどこういう輩がいるからブルーシートなんだな、と納得がいった。それと同時に最近の若い奴は(←まさか自分の中からこんな言葉が出てくるなんて!)こんな当たり前のマナーも守れないのかと、ちょっと寂しくなった。ゆとり世代もピンキリあるんだろうけど。
 

 投票所に入場して、チケットを係の人に渡すと「あちらで」と促されたのだが、その後を追うように「あっ、ここ土足・・・・」と背中に言葉が投げかけられ、途中で途切れた。

 この瞬間、私の中でぴーんとひらめくものがあった。

 あれっ、もしかしてこの投票場って土足厳禁じゃなくて土足入場なんじゃないか?

 係の人達は土足ではないが、みんなスリッパを履いている。裸足なのは私だけ。
 中にいる人達がみんな私を見ているような気がして急に恥ずかしくなった。体中の毛穴からぶわっと汗をかく。

 投票所を出ると、赤ちゃんを抱いたおばあちゃんと若い女の人がいた。彼女達とすれ違う時におばあちゃんが一瞬だけ私の足元に驚いた目を向けた。私も二人の足元に目を向けた。彼女達は二人共土足だった。ついでにいえば赤ちゃんもシューズを履いていた。

 私が玄関に戻って靴を履くと、あがりかまちに紙が貼ってあって『土足で入場できます』と書いてあるのを見つけた。おいおい、マジかよ。来るときは全然気づかなかった。意外に人って文字を見ていないんだなと思っていたが、ちょうどまた人が入ってきて、何の逡巡も見せずに土足のまま上がっていくのには驚かされたね。その文字を読んでいないのは私だけっだったみたい。帰りの靴の中は妙に砂っぽくてざりざりとした。

 家に帰ってからゆとり世代について調べてみた。
 ゆとり世代とはゆとり教育を受けた世代である。そのゆとり教育提起されたのは1972年だが、施行されたのは1980年から。土曜日が休みになったのは1992年でちょうど私が小学校の頃だ。つまり私はどっぷりとゆとり教育を受けた世代なわけで、紛うことなき『ゆとり世代』だったというわけだ。もっと若い人のことだと思っていた。

 ホントにね、ゆとりゆとりって言うけれど、ゆとり世代にはどうしようもない奴がいるもんだと発見した1日だったね。でもさ、中には凄いヤツもいると思うよ。羽生結弦だってゆとり世代だし、マー君だってそう、同い年ならこの前芥川賞を取った羽田圭介だってゆとりだ。どの年代だってスゴイ奴は凄いし、どうしようもない奴はどうしようもない。今も昔もそれは変わらないだろう。とにかく今日は身近なところにどうしようもないゆとり世代がいると気付いた1日だった。

(おわり)

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