愚者空間

牛野小雪のサイトです。 小説の紹介や雑記を置いています。 あと短い話とか。

2018年07月

『暴っちゃん』で味をしめたのか今度は芥川龍之介の『羅生門』をパロッた小説。

キモ金おじさん(元イケメンという設定だが)が主人公で、原作と同じように悪に身を落とそうかどうか煩悶しているということ(既に小悪党だけど)を下敷きにしているのだが、ここでもう少し踏み込んで悪に身を染めても救われないところまで書いている。羅生門ではまだ他に着物はあるし、老婆の抜いた髪もあるのに下人は老婆の着物だけを奪い、裸娼門ではギャルの下着や体がその辺に転がっているのにオッサンは老婆の下着だけを奪う。悪で身を立てるなら、もっと大きな収穫がすぐそばにあるのに小悪を犯しただけで舞台から消えてしまうのだ。ゆえに羅生門では下人の行方は知れないし、裸娼門でもオッサンは行方知らずとなってしまう。

ところどころにネットのネタが散見されて、最後は正義パンチの論考になるのだが、ここを中心のテーマに持ってくるとパロディ小説として一歩踏み込んだ内容となったのに、と書いている途中で、ふと下人もオッサンも最終的には悪に身を染めたのではなく、ただ単に老婆への正義パンチをかましただけではないかという疑念が湧いた。そして正義パンチをかましても老婆は生きているし、下人とオッサンは消える。

正義パンチは全方位へ向けられている。それは自分の心にも。自分で自分に正義パンチをすることによって、下人とオッサンは自分の中にある悪を消すのだが、それによって彼らは悪に身を染めても生き抜くという選択肢を潰してしまう。そう考えると『老婆はお前で、お前は老婆』という言葉が意味を持ってくる。老婆を否定するということは己の死に繋がっているのだ。

下人は羅生門を登り、オッサンは居酒屋のビルを見上げたように、悪の舞台は彼らより高い場所にある。悪は彼らより上回っていることが示されているのだが彼らは下界へ下りて老婆は最後まで上界に残っている。一見悪に染まったような下人とオッサンだが悪をぶん殴って正義に殉じていくようでもある。悪は命よりも上だが、それなら正義の下界で死ぬ方が良いという心意気だ。

この小説は単なる『羅生門』パロディ小説ではなく新しい解釈を提示した啓蒙小説だと言えるだろう。原作と同じように短い小説なので興味があればさっと読むのがおすすめ。


裸娼門
芥川龍之助平
2018-07-12
 昨今「正義とは何か」という論争が飛び交う中、本当の意味での正義を若者に考えさせる助平文学の原点として注目される予定であり、高校国語教科書に採用されるカオスな未来も遠からず予想される。
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 物語の冒頭に材木にする丸太が使い果たされて、打ち捨てられたホートンズ・ベイという町の描写から始まる。ニックとマージョリーはそのホートンズ・ベイのそばにある湖をボートで釣りをしている。題名にある通り二人は別れようとしているのだ。

 
 別れる理由ははっきりしないがマージョリーがニックの何もかも知っていることだと示唆されている。始めもニックはマージョリーの知らないことを色々教えて、それを彼女が面白がっているのが嬉しかったのだろうが、どんどんネタ切れしてきて苦しくなったのではないだろうか。

 

 倦怠期の男女がそのまま別れるような短編だが、もう少しひねって読んでみるとマージョリーはニックのことを何でも知っているのに、ニックがマージョリーについて知っているのは彼女が何もかも知っているということだけに気付く。それ以外にマージョリーはどういう人間なのかは窺い知れない。

 

 実はマージョリーはどんな人間でもなく中身のない空っぽの女なのかもしれない。彼女の人となりを表す一文として“彼女は釣りが大好きなのだ。という文章が出てくるが、その後に“ニックと一緒に釣るのが大好きだった。”と付け加えられている。そういうことを意識して読んでいくとマージョリーの言うことなすことの中心にいつもニックがあるような気がしてくる。ニックありきの彼女に最初は面白かったのかもしれないが段々嫌気が差してくるというのはよくある話だ。

 

ホートンズ・ベイがニックとマージョリーの比喩だとするなら、10年前に丸太が使い果たされた打ち捨てられたホートンズ・ベイだが今は二番生え、つまり一度切られた木が伸びていることが書かれている。収穫する価値がないのか、収穫する術がないのかは分からないが収穫できる何かはあるのだ。

 

 最後の最後にビルという人物がやってきてニックにマージョリーと別れたか聞くのだがニックは不機嫌に彼を跳ね返す。そういうところを見るとニックにとって不本意な別れだったのかもしれない。でも今の彼にはそうするしかなかったのだろう。

(2018年7月1日 牛野小雪 記)

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